霊性の回復

 

 現代文明は行き詰まつてゐます。日本の原子力発電所が爆発したことは、現代文明に対するそのひとつの警鐘です。ひとり日本だけの状況ではありません。欧米もイスラム諸国もアジア・オセアニア圏もラテンアメリカ・アフリカ諸国も同様です。資本主義と共産主義の対立であつた冷戦(Cold War)を人類は乗り越へ、叡智に向かつていくといふ期待も、今は全く空しく響くばかりで、混迷の度合いは益々深まつてゐます。
 Samuel Huntington(1927-2008)はイディオロギーの対立から「文明の衝突」の時代に突入したことを指摘しましたが、文明そのものに対する深い洞察がなければ、人類に解決の方向性は見い出されません。
 世界の諸宗教も、そこから派生してきてゐる諸文明も、実はその根つこは、深い「霊性」といふ地下水から汲み取つてきたものです。これこそ、Huntingtonに指摘してほしかつたことであり、現代文明が気づかなければならない重要なポイントです。しかし、現代の諸宗教も諸文明もこの「霊性」に気づかず、自己本位にイディオロギー化し、他の宗教、他の文明との相互理解を拒み続けてゐます。
 イエス・キリストの福音、仏教、イスラム教、ユダヤ教、何れの宗教に生きる人も、己を捨て、全身全霊で神の御心を求めて霊なる方の前に額づけば、霊なる神(仏)は、私たちに自らを顕されます。

 

主(ヤハウェ)、その眼は全地をあまねく見そなはし、全き心の者らを強め給ふ。(私訳)
歴代誌下16:9

 

ユダの者らは皆心を尽くして誓ひ、満腔の喜びをもつて、主(ヤハウェ)を求めた。主は彼らに自らを顕されて、彼らを周囲から守り、安息を与へられた。(私訳) 歴代誌下15:15

 

 

仏道を習ふといふは、自己をわするるなり。自己をわするるといふは、万法に証せらるるなり。万法に証せらるるなりといふは、自己の身心、および他己の身心をして脱落せしむるなり。悟迹(ごしやく)の休歇(きうけつ)なるあり、休歇なる悟迹を長長出ならしむ。 
正法眼蔵「現成公按」 道元 
(註) 悟迹:悟りのあとをたどること 休歇:休むこと、やめること 長長出ならしむ:無辺際になつていただく
cf. 「『正法眼蔵』 参究」  門脇佳吉著 岩波書店

 

 

つづく